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 vol.16 久禮智子先生(化学講座 特別研究員-RPD

Research Story, vol.16
奈良県立医科大学 化学講座
       特別研究員(RPD)  久禮智子先生
日本学術振興会(JSPS) 特別研究員-RPD (2025年4月採用)

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 化学講座の特別研究員である久禮智子先生はこの搜狐体育直播app下载7年4月から日本学術振興会 特別研究員-RPD(学振RPD)として研究されています。学振RPDは、我が国の学術研究の将来を担う創造性に富んだ研究者の養成?確保を図るため、日本学術振興会(JSPS)が実施する特別研究員制度において、子育て支援や学術研究分野における男女共同参画の観点から、優れた若手研究者が、出産?育児による研究中断後に円滑に研究現場に復帰できるように支援する事業です。
 今回は、久禮先生の学振RPDでの採択課題「災害?緊急時の代替輸血製剤を目指した新しい高分子修飾リポソーム型人工赤血球の創製」を中心に先生のご研究についてお話を伺いました。

?学振特別研究員-RPD(学振RPD)の採択おめでとうございます。先ず、今回採択された学振RPDの研究テーマについて専門領域以外の方でも理解できるようにご紹介いただけますか。

→ありがとうございます。今回採択された私の研究テーマは、「災害?緊急時の代替輸血製剤を目指した新しい人工赤血球製剤の創製」です。私たちの体内における血液中には、酸素運搬の役割を担う赤血球が含まれ、約8μmという小さな赤血球の1つの細胞の中に約2億5千万個ものヘモグロビン(Hb)がぎっしりと詰まっています。実際に酸素を結合して運搬するのはこのHbですが、Hbそのものは非常に毒性が高く、血管中で赤血球から漏れ出すと腎毒性や血管収縮、高血圧等を引き起こします。赤血球膜はこのようなHbの毒性を遮蔽する生理的意義を持っています。一方で、赤血球膜には血液型抗原が含まれており、輸血の際には血液型が適合しているかを確認するクロスマッチ試験が必要です。kure2fig1.png
 研究テーマにある人工赤血球とは、赤血球から膜を除去し、高純度?高濃度のHbをリン脂質からなる人工膜で包んだリポソーム型の模倣赤血球を指します(図1)。この人工赤血球の最大の特徴は、「血液型を問わず誰にでも即時使える」こと、そして「室温でも長期間保存できる」という点です。これは災害時や緊急手術など、血液がすぐに必要になる場面で大きな力を発揮します。現在、私たちが日常的に使用している輸血用の血液は、すべて献血に依存しています。少子高齢化が進むと、献血可能人口の減少が懸念されます。また赤血球製剤の短い保存期間(日本では冷蔵で28日間)により期限切れで廃棄される血液も少なくありません。緊急手術時、離島?僻地では輸血可能な医療機関までドクターヘリで移動する必要があり、産科危機的出血は産科における死亡原因の4分の1を占めます。このような背景から、輸血に代わる新たな選択肢として、人工赤血球の開発は今、大きな注目を集めています。
  現在奈良医大附属病院で治験がすすめられている人工赤血球製剤は、既に数多くの動物実験結果により有効性と安全性が確認されており、現在のところ有害事象はとくに報告されていません。人工赤血球製剤実用化の可能性が見えてきたように感じます。この人工赤血球の製造には、「混練法(こんれんほう)」という特殊な技術が用いられています(図2)。混錬法では、自転–公転運動により生じる強い力(剪断力)によって粘度の高いHb液と脂質成分を均一化し、効率よくリポソームを形成します。それまで一般的だったリポソーム調製法の押出し法と比較すると、Hb内包効率が約20%から74.2%まで飛躍的に向上しています。この製造法により、人工赤血球の大量製造が可能になりました。kure3fig2.png
 研究がかなり進んでいる人工赤血球ですが、私の研究では、これまでに得られた知見をさらに発展させる形での新たな挑戦として、「どんな保存環境や投与状況においても安定性と機能性を維持する設計」や「生体との相互作用をより細やかに制御する設計」という分子設計の観点から、基礎研究の立場での新しい人工赤血球の開発を目指しています。人工赤血球の生体適合性や安定性は、成分脂質の種類やリポソームの大きさ、表面特性、pHなどにより大きく変化します。使用する成分によって、人工赤血球としての特性?有効性?大量製造性にどのような影響があるかを探るところから、研究を始めたいと考えています。
 人工赤血球は、未来の医療にとって非常に大きな可能性を秘めた技術です。私はこの研究を通じて、どんな状況でもすぐに使える、安全で信頼性の高い「誰にでも使える輸血の選択肢」を増やしたいと考えています。 

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                  (久禮先生)          

②現在の研究テーマに興味を持ったきっかけはどのようなものでしょうか。

→大学時代、私は化学を学び、「有機金属錯体化学」という分野の研究を行っていました。「錯体」とは金属イオンと有機?無機の分子が結びついてできる化合物で、有機化合物単体にはない様々な特性を発現します。ヘモグロビンも鉄イオンを中心とする金属錯体の一つであり、異分野にみえて、実はつながっている部分も多いと感じます。
 学部時代に研究室を選ぶとき、私が惹かれたのは「ものづくりのプロセスが楽しそうだ」と感じた研究室でした。土曜日も関係なく実験に没頭するという、ある意味「厳しい」と評判の研究室でしたが、不思議と活気があり、研究に向き合う姿勢そのものに魅力を感じていました。今思えば、もともと私は研究に対して興味を持っていたのかもしれません。そのまま大学院へと進学し、修士号を取得しましたが、次第に「自分は本当に研究に向いているのだろうか」という迷いが生まれました。そして結婚を機に、私はいったん研究の道を離れました。
 しかし、研究への想いは完全には消えていなかったのだと思います。結婚後、少し時間に余裕ができたとき、「何かもう一度やってみたい」という気持ちが湧いてきました。そんなとき、奈良県立医科大学で非常勤講師の募集があり、化学実験の学生実習補助として再び実験と関わることになりました。実習期間が終わるころ、化学教室の酒井宏水教授から研究もやってみないかと声をかけていただき、自分でも実験を始めるようになりました。酒井先生の指導を受けて少しずつ研究を進め、論文執筆や学会発表の経験を重ねていくうちに、「やはり私はこの世界が好きなんだ」と感じるようになりました。好きだったものづくりに関わることができ、かつ、製剤の開発を通して人を救うことができる可能性のある現在の研究は、私にとって非常に興味深く、大きな意義を感じます。

③ 現在、研究を進めるうえでの関心や問題などについてお聞かせください。

→今、私が研究を続けていくうえで最も意識しているのは、「育児と研究の両立」です。
平日は、限られた勤務時間のなかで研究に全力で集中することを心がけています。研究室にいる間は、家庭のことは一旦脇に置き、できるだけ効率的に、深く実験や考察に向き合う。一方で、家に帰れば、育児や家事が待っており、自然と研究のことを考える余裕はほとんどなくなります。最初はその切り替えに戸惑いもありましたが、今ではこの「時間と意識の切り分け」こそが、自分にとってプラスに働いていると感じています。家庭と研究、それぞれの場で集中し、切り替えることで、短時間でも実験を前に進める工夫や、限られた時間の中で最大限成果を出す考え方などが自然と身についてきたように思います。
 とはいえ、まだ子供も小さく、子供が体調を崩すと保育園を数日休む必要があり、そのたびに研究が中断されることがあります。学振RPDで採択される以前は有給休暇(20日)と子の看護休暇(10日)をすべて消化し、それ以上に休まなければならないこともありましたが、現在は月給制のためその心配がなくなり、安心して研究に打ち込めるようになったと感じます。今後、育児に少し余裕が出てきたら、土日などの時間も活用してさらに研究活動に取り組みたいと考えています。研究も子育ても予定通りにいかないことが多いですが、それでも自分のペースで諦めずに続けてこられたことは大きな糧となっています。

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                  (インタビューの様子)  

④学振特別研究員-RPDとして意気込みをお伺いできますか。

→今回の採択でいただいたこの機会を、研究者としてさらに大きく成長するための重要なステップと捉えています。これまでの研究活動では、限られた時間や環境の中で実験と育児を両立させる難しさに直面しながらも、粘り強く研究を進めてきました。RPD制度の支援によって、腰を据えて研究に集中できる環境が整ったことは、本当にありがたいことだと感じています。
 研究を遂行するにあたり、国内外の異分野の研究者と交流して繋がりを築き、視野を広げていきたいです。また、得られた研究成果は積極的に国内外の学会や科学論文を通じて発信したいと思います。目下は、2026年に西安で開催される国際学会での発表を目標に実験を進めています。
 学振RPDの3年間は、私にとって研究者としての修行の期間と位置づけています。研究の進め方はまだまだ試行錯誤の連続ですが、新たな実験手法や測定技術に積極的に挑戦しながら、自分なりの研究スタイルを確立していけたらと考えています。この期間に得られる経験を糧に、将来的にはより実用的かつ社会的意義のある研究を展開できるよう、全力で取り組んでいきたいです。

⑤ 今後の先生の目標についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

 化学を専門とするバックグラウンドを活かし、現在は医学領域での研究に取り組んでいます。酒井宏水教授が進めている人工赤血球の実用化を目指すプロジェクトにも参加しており、治験薬GMP製造に携わっています。異なる分野を横断してきた経験は、物事を多角的に捉え、新たな発想へとつなげる強みになると考えています。これまで蓄積してきた知識と技術を融合させながら、基礎から実用化への橋渡しができる研究者として、医療に役立つような、実用性の高い技術の創出を目指しています。
 現在、治験が進められている人工赤血球は、血液型に左右されずに使用でき、長期保存も可能です。将来的にはこの技術が実用化され、必要とする現場で迷わず使えるような状況をつくることが私の大きな目標です。現在は献血液由来のHbを使用していますが、Hbに代わる酸素運搬体も鉄錯体などで人工的に作ることができれば、すべてが完全に人工合成された赤血球の創製もいつか叶うかもしれません。
 自分の研究が論文として世界に発信され、多くの研究者に読まれ、共感や刺激を与えられることは研究者としてこれ以上ない喜びです。奈良という地に根ざした研究や発信のかたちを模索しながら、世界に開かれた科学を追求していきたい。そんな想いを胸に、これからも一歩ずつ進んでいきたいと思います。

⑥久禮先生より謝辞

 日頃より研究をご指導いただいている化学教室の酒井宏水教授をはじめ、研究のご助言?ご協力をいただいている化学教室のメンバーの皆様、申請時にご指導いただいた血液内科?輸血部の松本雅則教授に感謝の意を申し上げます。

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以上

 

(インタビュー後記)

 人工赤血球という一見専門的なテーマを、熱意とわかりやすい言葉で語ってくださった今回のインタビューでお話を伺う中で、研究者としての深い探究心と、母親としてのたゆまぬ日常の両立が、静かな情熱として伝わってきました。「研究は、自分の好きだった“ものづくり”につながっている」と語る姿がとても印象的でした。研究の最前線に立つ一方で、日々の限られた時間の中で地道に実験を重ねてきたこと、そして“自分のペースで諦めずに続けてきた”という言葉には、同じ働く人間として大きな励ましを感じました。
 人工赤血球が「誰にでも使える輸血の選択肢」となる日がくれば、医療の現場にとって、そして社会にとって大きな一歩になることは間違いありません。今回のインタビューを通して、その実現に向けた確かな歩みと、研究者としての揺るぎない志を知ることができたのは大きな喜びでした。これからのご活躍を、心から楽しみにしています。

インタビューアー:研究力向上支援センター
URA特任講師 富樫英 URA特命教授 上村陽一郎 URA 垣脇成光

 

【化学講座の搜狐体育直播app下载ページ】: 酒井研究室 医学部 化学教室 奈良県立医科大学(外部サイトへリンク)

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