搜狐体育直播app下载 > 関連施設?センター > 研究力向上支援センター > 若きトップサイエンティストの挑戦 > vol17 小野寺悠先生(第二生理学講座 特別研究員-PD)
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第二生理学講座の特別研究員である小野寺悠先生はこの搜狐体育直播app下载7年4月から日本学術振興会 特別研究員-PD(学振PD)として研究されています。 学振PDは博士の学位取得者で、優れた研究能力を有し、大学その他の研究機関で研究に専念することを希望する研究者を「特別研究員-PD」として採用する日本学術振興会の支援制度です。
今回は、小野寺先生の学振PDでの採択課題「血友病A根治に向けた血液凝固第VIII因子産生iPS細胞の作製と細胞治療」を中心に小野寺先生の研究についてお話を伺いました。
?学振特別研究員-PD(学振PD)の採択おめでとうございます。先ず、今回採択された学振PDの研究テーマについて専門領域以外の方でも理解できるようにご紹介いただけますか。
→私は、血友病Aを根本的に治療し、副作用のない新たな治療法の開発を目指して研究を進めています。血友病Aは、血液凝固因子である第Ⅷ因子の欠損または機能低下により生じる遺伝性の出血性疾患です。現在では、第Ⅷ因子の補充療法や、その機能を模倣した抗体医薬によって、多くの患者が病気を意識することなく日常生活を送ることが可能となっています。しかし、これらの治療は生涯にわたって月数回の通院と投与が必要であり、患者の負担は決して小さくありません。したがって、より持続的かつ根治を目指せる治療法の確立が求められています。
近年、第Ⅷ因子をコードする遺伝子を患者の体内に導入する遺伝子治療の臨床試験が進められていますが、第Ⅷ因子の発現が年単位で低下する傾向が報告されており、根治には至らない可能性が指摘されています。そこで、第Ⅷ因子を産生する細胞を体内に移植する細胞治療のアプローチに着目しました。私の現在の研究は、第Ⅷ因子を安定的に産生する細胞を移植することによって、血友病Aに対する根治療法の実現を目指すものです。これまで、ヒトiPS細胞から分化させた血管内皮前駆細胞(EPC)を含む細胞シートを作製し、これをマウス肝臓の表面に移植する研究に取り組んできました。しかし、肝臓表面への移植アプローチでの自然産生には限界があることが示唆され、学振PDの研究テーマでは遺伝子改変により第Ⅷ因子を産生させる方向に転換し研究を進めることにしました。第Ⅷ因子を強くかつ安定的に発現できるようにゲノム改変したiPS細胞を用いて、分化誘導後に細胞シート化し、これを移植します。これにより、移植細胞が長期にわたって第Ⅷ因子を産生し続けることで、根治的治療の実現が可能になると考えています。
(小野寺先生)
②現在の研究テーマに興味を持ったきっかけはどのようなものでしょうか。
→私自身が血友病Aの患者です。血友病Aは「治らない病気」ですが現在の優れた治療法により日常生活で困ることはほぼありません。そのような状況では、治らない病気のことを考える意味もなく、研究に関わることもありませんでした。
しかし、社会人として働きはじめた後、当時の主治医の大阪医療センターの西田恭治先生とお話しする中で、「血友病Aの根治」の可能性に触れました。元々飽き性な性格で、当時は企業に就職して3年目の時期でしたが、企業での研究に飽き始めていた時期でした。「自分のことなら飽きずにやれるかもしれない」という思いと、「根治療法の開発を行うには絶好の時期かもしれない」という思いの元、誰のもとで学ぶのが最適なのかを真剣に探し始めました。患者?医師?研究者が一堂に会するフォーラムに参加し、色々な先生からお話を伺いました。複数の方々から名前が挙がったのが、奈良県立医科大学の辰巳公平先生でした。その評判と研究内容に惹かれ、会社を退職して大学院博士課程への進学を決意しました。会社からは、仕事を続けながら研究を行うことも提案されましたが、本気で取り組むには退路を断つことが重要と考え、中途半端ではなく研究に専念する道を選ぶことが最善だと考えました。
③現在、研究を進めるうえでの関心や問題などについてお聞かせください。
→入学前から自分の研究を社会実装するため、研究成果の特許出願、スタートアップの設立について考えていました。しかし、実際に将来的な資金調達が可能な「強い」特許を出願しようとすると、単に大学での研究成果をそのまま権利化するだけでは不十分であり、綿密な先行特許の調査、適切な権利範囲の設定、そしてその道のプロの弁理士のサポートが不可欠です。大学という環境では、こうした実務的な支援体制がまだ十分に整っているとは言えず、世界で戦える特許を作り上げていくことには大きなハードルがあります。
その先の起業についても同様です。研究者として技術や医療への情熱を持っていても、特に創薬スタートアップにおいては、創薬の「お作法」を熟知する製薬企業経験者の存在が不可欠です。これらを一人で進めるのは現実的ではありません。近年、大学内にもスタートアップ支援に特化した窓口が設置され、起業経験のあるメンターとのマッチングや、事業化に向けた助成制度など、起業を志す研究者を支える体制が整いつつある点は、良い方向であると感じています。
また、特許や企業設立に伴う費用も無視できません。特に初期段階では、最も重要な基本特許の出願を、最も無知かつ資金に乏しい時期に行わなくてはならない、というジレンマがあります。この点において、研究者の発明を守り、将来の患者さんの治療の可能性を残すために公的資金や大学内ファンドなどの支援制度が果たす役割は大きいです。
私自身の経験からも、こうした支援体制のさらなる充実が、基礎研究を社会に届け、真に患者の役に立つ医療を実現するためには欠かせないと強く感じています。研究者自身が、社会実装の担い手となれるような環境づくりが、今後ますます重要になると確信しています。
(インタビューの様子)
④学振特別研究員-PDとして意気込みをお伺いできますか。
→これまでの取り組みの中で、血友病Aの治療に向けた第Ⅷ因子を産生する細胞の作製には成功しました。これは、研究の大きなマイルストーンです。しかし、本当に重要なのは、この細胞が生体内に生着し、第Ⅷ因子を安定的かつ機能的に産生できるかどうか、すなわち治療として有効であるかどうかの証明です。その次のステップとして、これらの細胞をマウスに移植し、生体内で実際に有効なレベルの第Ⅷ因子産生と凝固能の回復を確認することが必要になります。技術的な課題は残されているものの、これまでのデータから見ても、その実現可能性は高いと考えています。
また、研究資金の確保という点でも、今回採択されたJSPS(日本学術振興会)の特別研究員制度に加え、関西スタートアップアカデミア?コアリション(KSAC)からの支援を受けることができており、研究実施体制は整いつつあります。このPD期間の3年間で、「血友病Aの根治」という目標に向けた確かな一歩を刻むことができると確信しています。
⑤今後の先生の目標についてお伺いしてもよろしいでしょうか。
→血友病の根治法の開発を自分のライフワークと考えています。その実現には相当の時間がかかると考えられますが、ライフワークとして取り組むに値するテーマであると感じています。この道を歩み始めたとき、私は農学部出身で、企業では化学系のバックグラウンドを持つ研究職に就いていました。そんな自分が血友病の研究を志し、大学院に進学するというのは、まさに新しい世界への挑戦でした。細胞実験や遺伝子工学といった専門的な技術は、これまでの経験とは大きく異なり、最初はすべてが未知の領域でした。しかし、研究室の先生方の丁寧なサポートのおかげで、少しずつ実験技術を習得し今に至ります。
医師ではない自分にとって、これまでの道のりは経済的には決して楽ではありませんでしたが、それでもこの研究を続ける価値はあると確信しています。自分が「やるべき」と感じた直感に従って行動してきた結果、ここまで来ることができました。今回採択していただいた、JSPSの特別研究員の制度も積極的に活用し、今後の研究に集中していきたいと考えています。
⑥小野寺先生より謝辞
大学院進学にあたり、専門外である自身を快く研究室に受け入れて頂いた嶋緑倫先生、辰巳公平先生、そして血栓止血先端医学講座のメンバーに感謝致します。そして、本PDでの研究の根幹であるゲノム編集実験の手技をご指導頂いた堀江恭二先生、吉田純子先生、生理学第二講座のメンバーに感謝致します。特許出願にあたり、本来であればアカデミック研究者として優先すべき論文投稿や学会発表の時期を遅らせることにご理解?ご協力頂いていることに関して、特に感謝を申し上げたいと思います。そして、日々の研究活動を支えてくれている妻と娘にもこの場を借りて感謝したいと思います。
以上
(インタビュー後記)
今回のインタビューを通じて、患者でありながら研究者として血友病Aの根治を目指す ? その両面を併せ持つ挑戦に、強い感銘を受けました。特に印象的だったのは、「治らないからこそ考えても仕方がない」と思っていたところから、「治るかもしれない」と聞いた瞬間に、自らその実現に関わりたいと強く思い、キャリアを大きく転換された点です。農学部出身、企業での経験を経て、あえて未知の分野に飛び込むという決断力と行動力には、研究者としての信念と強い動機を感じました。
また、特許出願や企業設立に対しても現実的な視点を持ち、社会実装に本気で取り組もうとする姿勢は、今後の医学?バイオベンチャーにおける一つのモデルになると感じます。一方で、制度面や支援体制の課題にも冷静に向き合っており、研究者と社会との橋渡しをどう築くかという問いに対する深い洞察も印象に残りました。「自分自身の病を、自分の手で治す道を切り拓く」? その強い意志と柔軟な姿勢は、医療研究の新しいかたちを示してくれるように思います。今後のご活躍が非常に楽しみです。
インタビューアー:研究力向上支援センター
URA特任講師 富樫英 URA特命教授 上村陽一郎 URA 垣脇成光
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